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第4回/日本の気候に合った家
住まいと電化の連載コラム
第4回/日本の気候に合った家
断熱する「熱」とは
前回は家の断熱、気密性能が冷房に大きく関ってくる事を事例をもとに記述しました。しかし、温暖地と寒冷地の断熱と気密性能の基本概念が大きく異なる事に気が付かなければなりません。
普段、私達は温度計に表示される「気温」「温度」などを「熱」と思っています。勿論、温度計に表示させる「熱」も、触れて「熱い」と感じるのも「熱」であることはいうまでもありません。
このように、表示できる熱(これを顕熱という)の他に、温度計に表示できない熱(これを潜熱という)の存在の大きい事を意識しなければなりません。
湿度80%は気温30度に匹敵か
湿度80%で気温30度の空気を、乾燥剤の入っているフィルターを通過させて80%の湿度を10%まで低下させた時、30度の気温は約2倍の60度にまで上昇します。
信じられない現象ですが、公知の事実であって、それを計算式で証明することも出来ます。水蒸気が1リッターあたり抱えている潜熱は500kcal以上にも及びます。
気温30度、湿度80%の空気では、空気中の水蒸気が抱える温度計に表示されない潜熱が、顕熱の30度と匹敵する熱を維持している事を物語っています。気温、つまり顕熱と、水蒸気の抱える潜熱の双方で全熱といいます。決してエネルギー不変の法則を逸脱しているものではありません。
全熱式熱交換式換気扇というのがありますが、気温、つまり顕熱と一緒に潜熱(湿気)の双方を回収するため「全熱式」と表されています。
湿気を遮断できるのか
従来の断熱施工においては、顕熱のみを断熱する概念しか適用されておりません。気密の考え方も、室内で発生した湿気を断熱材に吸着させない事と、熱を逃さないための省エネを目的としています。
現実に、施工的にも外から侵入する湿気を遮断するのは容易なことではありません。私達は、湿気や水蒸気といえば湯気をイメージします。しかし、目に見える湯気はまさに大きな水滴の液体であって、水蒸気は酸素や炭酸ガスのような全く目に見えない気体なのです。
つまり、酸素や炭酸ガスを遮断するようなハード性が求められ、ポリフィルムを張って、その上から釘打ちするような仕様ではとても気体たる水蒸気を遮断するに及びません。
体感温度と湿気
湿気が抱える熱の潜熱は、気体から液体に、液体から気体に状態変化を起こすことで顕熱に変わります。このメカニズムを活用したのがエアコンの冷暖房システムなのです。
潜熱が顕熱にならなければ、私達は暑いとか寒いとかの感覚に至らないのです。しかし、潜熱が無いという事は、空気が乾燥している状態ですから、私達の身体から水分が蒸発し易くなります。この蒸発する際に体温を奪うために涼しく感じる様になります。
冬期間の北海道の相対湿度はほとんどが90%くらいに及びます。しかし、本州の相対湿度は30%前後まで低下します。ここで、あえて湿度の頭に「相対」を付けたのは、相対湿度の他に「絶対湿度」を使い分ける必要があるからです。
相対湿度と絶対湿度
気温は湿気を抱えられる器であると言えるでしょう。湿気の量が一定でも、気温が低ければ割合が大きくなるので湿度が高く表示されます。まさに北海道の冬の相対湿度が高いのは低温で気温の器が小さいからです。
湿度30%という事は、気温の器が抱えられる湿気の量の30%を既に抱えているという事を意味します。この温度と湿度の割合を「相対湿度」というのです。
絶対湿度とはその時の気温に左右されない、その空気中に含まれている湿気の絶対量を意味します。空気1kg中(約0.8m
3
)に含まれている水分の量をkgで表示します。
例えば、気温20度の相対湿度50%の時の絶対湿度は8g程度です。それが気温20度の80%では14g、気温20度の30%では5gとなります。
ちなみに、私達がもっとも快適に過せる絶対湿度は7~8g程度といわれています。
日本特有の気候
夏場の本州は、気温30度以上で湿度が80%を超える場合が殆どで、この時の絶対湿度は25gにおよび、逆に冬の気温は5度程度で湿度30%程度となり、この時の絶対湿度は3g程度で完全に乾燥状態となります。赤道直下の熱帯雨林の多湿と、砂漠の冬によく似たカラカラ乾燥の両極端な気候をもたらす地域は、北半球で日本だけといわれています。また、夏場の直達日射に加熱された部分が100度にも到達して暑さに拍車をかけます。この特殊な気候風土で培われてきたのが、開放型で屋根だけに極端な断熱性能を持たせた、萱葺き家屋でした。
萱葺きの屋根は夏場の直達日射熱を完全に遮断するには多いに効果的です。また、この萱葺き屋根が含んだ湿気が蒸発する際に周辺温度を奪って冷房の役割を果たし、冬は湿気を補給して過乾燥を防ぐ役割を果たしていました。
日本家屋の思想を生かせ
日本の建物は大きな石を基礎にして土台を組み、木材の土台や柱を完全に開放して空気に触れさす事で建物を腐蝕菌から護って来ました。
また、土台下の地盤面の安定した湿気を、家全体に行き渡る様に工夫され、前述したように、熱帯雨林のような多湿状態とカラカラ砂漠の過乾燥を緩和して、家と住む人のストレスを和らげて来たのです。このような工夫の中には当然ながら「顕熱」「潜熱」の存在もおり込み済みであり、その卓越した技術は知れば知るほど驚くばかりです。
現在の住宅を省みた時、このような先人達が何千年にも渡って培った、この大変特殊な日本気候風土に適合した技術が、殆ど生かされていない事に気付かなければなりません。
新建材や冷暖房機器普及などで住宅がどんなに進化しても、この日本家屋の思想理念を必ず生かしておく事が必要なのです。
次回はQ値(熱損失係数)の真実を記述します。
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