茅葺き屋根の家を参考に
年中一定の湿度を保持する理想の環境
真冬の日本列島は、沖縄以外、暖かい地域はないと言っても過言ではありません。北海道の寒さは誰もが知るところですが、一番暖かいと言われる宮崎県でさえ、暖房なしで冬を過ごせません。これは気温が0℃に近くなるのに加え、湿度が極端に少なく乾燥するからです。
真冬の北海道は湿度80%、日本海側の北陸でも60%、太平洋側では30%を切ることもあります。しかし、これは相対湿度と言って、気温と言う湿度を抱える器の大きさで割合が異なっているだけです。真冬の日本列島の絶対湿度(実際に空気中に含まれる湿気量)は、北海道も北陸も宮崎もそんなに大きな変わりはなく、快適絶対湿度7g/kgに対して、およそ2g/kg~3g/kgくらいなのです。
空気が乾燥すると、70%が水分だと言われる人間の身体から猛烈に湿気が蒸発しやすくなり、一緒に体温を奪うのです。逆に夏場は蒸発しやすくするのが理想です。住まいは、夏冬通じて一定の湿度に保持することができれば、理想的な環境となります。その調湿機能を自然現象で発揮していたのが、茅葺き屋根(かやぶきやね)の家だったのです。
冬暖かく、夏涼しい茅葺き屋根の家
茅葺き屋根は夏場の一時期において、梅雨時期で茅葺き屋根の萱(かや)に溜め込んだ大量の雨水を、高い気温や太陽熱によって蒸発させます。この蒸発する際の気化熱で家屋内の熱を外部に放散させます。気化熱は蒸発潜熱とも言い、人間の肌に揮発性の高い液体を垂らすとヒヤッとするのは気化熱で体温を奪うためです。
気密性が全くない茅葺き屋根が自然冷房の役割を果たすとともに、住む人の身体からも体温を奪うため、気温が高くても涼しく感じます。
その反面、乾燥する真冬には、茅葺き屋根から湿気を家屋内へ放出するため、体温を奪うのを防止します。
茅葺き屋根は、開放の思想を大切にする日本の家屋の文化そのもので、開放したままに家屋内の調湿を行い、冬暖かく夏涼しく、四季を通じて快適な居住空間を保持していました。しかもカビや腐朽菌の発生も少なく、長くにわたって住み継がれています。
高寿命の家づくりのヒントは、まさにこの茅葺き屋根にありました。
高気密住宅でガスが燃焼しにくい
わたしたちは、ウレタン系現場発泡スプレー方式の断熱材により、外部からの気温、湿気などの影響を完全に防ぐことで、真の断熱住宅を構築する機会を得て、現在の「ファースの家」の原型をつくり上げました。
現代社会では、茅葺き屋根の家を住宅地域に建てることはできません。消防法や建築基準法などの法的規制、それに萱材料の入手が困難なほか、職人も少なくなりました。純粋な茅葺き屋根を再現する事は叶いませんが、その思想を新建材で上手に工夫して生かすことを考えました。
構造体や内装部材のすべてを、家屋内に循環する空気に触れることのできる構造としました。断熱性・気密性を高めているからこそ実現できるのです。
ところが、このような超高気密の家の内部では、ガスや石油が燃焼しにくくなります。それは、気密性が高いために、たとえ大型の換気扇を稼動させても、家屋内が負圧状態(真空状態)となり、換気での排気ができないのです。
窓を開けたり吸気を行えば燃焼しますが、乾燥した冷たい空気や湿気の多い蒸し暑い空気を入れないために、気密を高めた意味がなくなってしまいます。その影響から、換気量を必要最小限にする必要性があるため、高気密・高断熱住宅は、必然的にオール電化とならざるを得ないのです
調湿と空気環境を考える
調湿と空気清浄にファースシリカ(シリカゲル)を採用
人は、1日に1人当たり、生活発生水として約10リットルの湿気を出すと言われています。
快適な家にするには、年間を通じて家屋内の調湿を行う必要があります。
高気密・高断熱の条件下では、茅葺き屋根の家のように、家屋内で発生する生活発生水を家屋内に溜め込む必要があります。
調湿性能を行う方法として、乾燥剤のシリカゲルに着目しました。
シリカゲルはガラスを生成する段階で多孔質に処方したもので、1000万分の1mmという極めて細かい穴が無数に開いています。この穴に湿気を閉じ込める作用を利用したのが乾燥剤です。湿気を閉じ込めてあると言うことは、そこに湿気が存在することですから、必要に応じてその湿気を放出できないかと考えました。多孔質のシリカゲルの穴の大きさをほんの少し大きくすることで、湿気を吸ったり吐いたりすることができるように開発したのが、ファース専用部材の空気清浄調湿剤「ファースシリカ」です。この工法は特許登録されています。
「ファースシリカ(シリカゲル)」は湿気を吸着する際に、その表面を無数に覆った水酸基を言われる細かいトゲに、空気中の有機ガスを捕まえる科学吸着作用を起こします。この空気清浄の技術は、茅葺き屋根の思想を超越した現在の革新的な技術によるものと自賛しています。
このような、調湿機能、空気清浄機能、温熱安定性能を充分に発揮させるために、オール電化の特性を活かして計画換気を行います。
健康空気循環システム「AIキット」で、
結露や温度・湿度のムラを防止
住宅の内部結露を防止するためは、家屋内で低温部分や高湿度の部分などの偏りができないように、空気の流れを作る必要があります。
ファースシリカで適切な湿度かつきれいになった空気を、家全体に循環させる「ファース工法」独自の仕組み、健康空気循環システム「AIキット」を開発しました。
天井裏(小屋裏と天井裏を樹脂断熱で完全隔離構造)の空気を送風機でパイプを通じて床下に押し込むと、床下の気圧が高まり天井裏の気圧が低くなるため、押し出された床下の空気が家の外周だけに開放したインナー通気層を伝うことで空気が循環します。
熱交換式換気扇で外気を室内の温度に近づけて取り込んだ空気を床下に送り込みます。
床下に敷き込んだ「ファースシリカ(シリカゲル)」は、熱交換式換気扇で換気された空気の余分な湿気や有機化合物を吸着しながら空気を清浄し、各部屋へと送られます。また、室内が乾燥状態になったときには、ファースシリカが抱え込んだ湿気を放出する作用が働き、調湿します。
この空気が構造体の中を循環し、床下と天井裏、各部屋など、家の中全ての空気環境をほぼ均一に整えることによって、低温部分や高湿度の部分ができにくく、内部結露を防止し、無垢の木材や珪藻土、漆喰などの自然素材の効能を有効に発揮できます。
「ファースの家」の専用部材を用いた仕組みの構築によって、茅葺き屋根の機能・性能を、新建材で具現化できるようになったのです。
エアコンの効率的な稼働で、うるおいのある快適な冷暖房
「ファースの家」は、天井裏に高機能エアコンを設置していますが、普通のエアコンを高さの低い天井裏に取りつけると、噴出した冷気をすぐに吸い込むショートサーキットという現状を起こし、エアコン内のセンサーが冷えたとサーチして運転を低稼働にしてしまいます。
「ファースの家」が理想とする住宅性能を実現するには、高さの低い天井裏を均一に冷やす必要があったため、専用エアコンの開発をすることになりましたが、エアコンメーカーは、天井裏を冷やすなどとんでもない方法だ、と強く拒否反応を示しました。
そのため、構造的に工夫しショートサーキットを防止した「ファースの家」を、エアコンメーカーの方々に実際に体験していただいたところ、驚異的な性能に驚き、積極的に開発に協力いただけるようになりました。
天井裏を均一に冷やし、その冷気をサイクルファンで床下に循環することで、冷房も輻射熱で行えるようになったのです。
「ファースの家」には調湿性能が備わっているため、温度をあまり上下しなくても、潤いのある快適な冷暖房が可能になりました。