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第10回/環境共生の家
住まいと電化の連載コラム
第10回/環境共生の家
科学と環境共生
科学とは自然を知る事であり、科学技術とは知った自然とどのように向き合うかの工夫であると思います。環境共生とは森の中で生活する動物のように、自然の中に溶け込んで生活する状況をイメージします。
しかし、人間は他の動物と異なり、皮膚に羽毛などを有していないため、雨風や氷点下、炎天下の自然にそのまま溶け込んで生活するのは不可能なのです。人間の体温を良好に維持させるためには衣服を身に付け、住居の中に身を寄せます。人間は、便利さや快適さを求める欲望に留まるところを知りません。
科学技術はそのような人間の欲望を満たしつつ、自然環境をまさに自然のままに維持することを「環境共生」というのでしょう。
自然素材だけでは
無垢の木材や珪藻土などの自然素材だけで家を構成出来るに越した事はありません。
しかし無垢の木材は、太陽の紫外線に極めて弱く、また湿気による腐朽菌にも侵され易い短所を持っております。そのため多くが塗装や薬剤による防腐防蟻処理が必要になる場合もあります。
珪藻土にしても、粘着強度を増すための補充添加剤を混入させる場合もあり、見た目は自然素材でも、結果として新建材とあまり変らない仕上げとなる事が多いのです。
家の寿命
三十年前後で家を建て替えてしまうのは、住む人がそこに住む意欲を無くしてしまった結果といえるでしょう。昔の家みたいに百年、二百年もの寿命を有していたら、自然環境に与える影響は全く異なった事でしょう。
家を構成する木材は環境さえ整えば百年、二百年などではなく、法隆寺のように一千年以上もの寿命を持つものなのです。
数十年でしかない短い住宅寿命は、森林資源を枯渇させ、廃棄物処理で大気が汚染され、ゴミ捨て場で地下水などにも大きな影響を与えます。真の環境共生は、安易に建て替えを行わない家を造る事が先決であると思われます。
つまり、住む人のストレスを増大させないための工夫が施されている事が大切なのです。
温度と湿度が大きく関る
人は身体の体温を維持するために、衣服をまといます。衣服もその時の周辺気温によってその厚さを変えます。また湿度によっても体温が奪われるのです。
熱は高い所から低い所に移動し、湿度も高い所から低い所に移動します。例えば安眠できる布団の中の温度は31度前後といわれています。周辺の温度が低ければ布団を厚くして熱の放散を少なくします。
衣服も同じ意味で気温によって厚さを変えているわけです。温度による熱の放散だけでなく、水の固まりである人の身体からは水蒸気が常に発散しています。その蒸発に伴って体温を奪うのです。
冬、気温が低い時に湿度を上げて身体から水蒸気が逃げないようにしますと寒さを和らげる事が出来ます。また、夏、気温の高い時に湿度を低くしますと、身体から水蒸気が蒸発し易くなり、体温を下げるので涼しく感じます。
つまり、暖房や冷房で人を快適に住まわせるには、温度の調整と合わせ、湿度を管理する事が出来れば最適なのです。
短い家の寿命の要因
このシリーズで何回も主張してきましたが、一般に使用されるグラスウールは乾燥した空気を静止させる事で断熱作用を維持します。
一応、ポリフィルムで気密層を構成し、透湿シートで断熱材の抱えた湿気を除去するような仕様を指導しています。
しかし、グラスウールとポリフィルム、透湿シートの組合せにおいて、様々な敷地や構造、生活環境などの影響で、十年間以上の長期間においては、水蒸気を遮断させたり、蒸発させたりの湿気管理を行う事は不可能です。
また、新建材そのものも湿気管理の思想を充分に性能へ反映させておらず、然るにカビの胞子が主であるハウスダストの発生、腐蝕菌の発生などで住む人のストレスを増大させ、短期間で住み続ける意欲を失わせる要因となっています。
新建材も施工の工夫で
新建材の使用は今や現代建築の常識となっています。新建材は、耐候性の向上や生産性を高めるため、粘着剤、防腐剤、凝固剤、見た目を良くするための配色色彩なども、先端の科学技術を駆使してきました。しかし、環境共生を意識し始めたのはごく最近のことです。
有害物質を含んだ建材を使用しないようにしなさいという指導ではなく、有害物質を含んだ建材を生産させない強い規制が求められます。
また、新建材自体が吸湿、排湿が出来る湿気管理の性能も大切な要素となります。グラスウールは樹脂断熱材と比較されますが、ともに一長一短があります。
樹脂断熱材は、燃える、熱に弱い、やせる、価格が高い、施工がし難い、燃焼時の有毒ガスなどが指摘されます。つまり燃えないように、火や熱から保護し、ガスが抜けないように施工方法の改善などの対策が必要です。
私は樹脂断熱の施工課題を研究してきましたが、その多くを解決した方法を実際に具現化しています。
グラスウール断熱では常に乾燥状況にある天井裏断熱には最適です。また、湿気管理の思想が反映されていない新建材は、その施工を工夫する事で対応する事が可能となります。
いずれもその特徴を引き出して使用する事が大切です。ともかく前提は、長期間にわたり、住む人に不快感を与えない家の性能を維持し続けることが最重要なのです。
家の性能と環境共生
環境共生とは、快適な生活を営みながら、自然環境を自然のままで維持する事です。
それには家の性能を上げる事が不可欠で、寒い家は暖房のため多くの熱を消費します。
防暑を意識しなかったために冷房の負荷エネルギーを増大させます。
更にその事自体、つまり、暖房や冷房の高負担までもが住む人に住み続ける意欲を減退させる要因となっているのです。
前号でオール電化になるべき理由を記述しましたが、主暖房を電気で行うのは、とんでもないという批判が多くあります。
また、樹脂で塗り固められた家などもとんでもないとする批判もたくさん存在します。
表面だけをとらえればもっともな意見と思われます。しかし、その多くが既成観念にとらわれ、環境共生の意味合いを肌で感じていない現れではないかと思われます。
次回はオール電化システム普及への道のりを記述します。
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