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第11回/オール電化普及への道のり
住まいと電化の連載コラム
第11回/オール電化普及への道のり
主暖房を電気とはけしからん!
今でこそオール電化システムの住宅はかなりの高い普及率で建築される様になりました。しかし、私がはじめてシステム電化を提案した昭和63年当時、主暖房を電気で行うとは贅沢も甚だしいという批判が断熱気密性能などの研究機関の学術者の方々から多く寄せられておりました。
1キロワット発電するための熱源を数値で記し、送電線での送電ロスなどを計算し、電気エネルギーの貴重さを解説しており、その貴重な電気エネルギーを、プラスとマイナスを引っ付けて、暖房や給湯などを行うとはとんでもない事だと指摘されたのです。
このような表面的な理屈にはとても説得力があり、主暖房を電気としたオール電化など理屈に合わないとする風潮が色濃く存在しておりました。
気密住宅での燃焼暖房機器は
私は断熱気密手法に限界を感じ、外壁の内側から樹脂の原液を吹き付け、更に天井と床下を特殊な方法でシームレス状に気密断熱層が一体となる工法を開発しました。
この技術によって隙間相当面積係数(C値)が0.6cm
2
/m
2
と、高い気密性能を例外なく施工できる様になりました。
この住宅に従来のガスや石油を燃焼させる暖房機器を使用した場合、意外な兆候が発見されました。
家の性能が良いため燃焼暖房機器を最微少稼働にせざるを得ません。この微少稼働モードで運転し続けますと燃焼効率が低下し、更に外部に排気される有毒な燃焼ガスが急激に増加します。
隙間を多くしたり窓をあけて家の中を寒くし、燃焼機器の燃焼モードを大きくしますと燃焼効率が上昇し、排気される有毒な燃焼ガスが少なくなります。家の性能が機器の燃焼環境に大きな影響を与えていたのです。
気密住宅でのガスレンジは
こうした高気密住宅の台所で、ガス給湯器やガスレンジを使用しますと、換気量を多くしたり、窓を開けないかぎり不完全燃焼に近い状態となり、室内環境も最悪の状況になる場合があります。
当然ながら気密性能を上げた意義を問わなければなりません。気温と湿度を管理するために気密住宅を作った意義をです。
当時、電磁ヒーターなどのような機材は存在せず、出力の頼りない蚊取り線香のような発熱線を巻いたシーズ式クッキングヒーターしかありませんでした。当時、私はオール電化といっても、暖房とクッキングヒーターが導入できればと思っていました。
しかし、ガス瞬間湯沸し器も気密住宅の中では不完全燃焼を起こす場合がある事を確認し、深夜電力の温水器を持ち込み、現在とほぼ同じオール電化住宅をつくりました。
面食らう電力会社
当時の電力会社は、営業開発部門などを開設して、深夜電力対応の電気温水器の販売を推奨し、負荷平準化に一生懸命になっていた頃でした。
当時の電力会社の担当者は、暖房器も温水器も厨房も全てが電気で行う「オール電化専用住宅システム」のうたい込みに、少なからず疑念を持っておりました。
多くの関係者は私どもが、電力会社を営業媒体に活用しようとするための経営戦略上「オール電化専用」と思ったため、誰も相手にしてくれなかった事を記憶しています。
四面楚歌の中に光明が
一部のハウスメーカーや学識者、電力関係者は、現場発泡断熱の魔法瓶方式とオール電化専用工法など、とても人の住める居住空間にはなり得ないと酷評され、開発者の私は要注意人物の奇人変人であるとの扱いを受けたのです。一番、頼りにした電力会社の担当者にも「危うきに近寄らず」の対応が感じられました。
しかし、この時代に、電化住宅市場を現場の情況に視点を合わせて、5年後10年後15年後の住宅市場を先見していた電力関係者が存在しており私はここで四面楚歌の中の光明を見出す機会となりました。
当時、人づてで北海道電力札幌支店に、システム電化を唱える変わり者が居るという話を聞きつけて訪ねてみました。三十代後半、背筋がとおり、肩幅が広く、ブランドのスーツを着こなし、電力マンとは思えない風貌の持ち主でした。
当日、時間の関係で詳細の打ち合わせが出来ませんでしたが翌日、彼は、札幌からわざわざ道南上磯町(現・北斗市)の私の本社まで出向いて来ました。当時、四季を通じて電気を使用する温水器を売り込む事が、電力会社としての真の負荷平準化であるとする考えが主流でした。
しかし、彼は温水器市場の限界を察しており、家の性能とシステム電化の整合性を説きたいという強い熱意がありました。
電力会社にも奇人変人が
当時、多くの人達が、熱損失係数だとか熱貫流率、熱伝導率などの言葉を発したとたん、この世のものではないような受けとめ方をされたものです。電力会社の関係者も例外ではありません。
そのような環境の中で私のような端から奇人変人だと言われる者の話に耳を傾ける事じたい、彼自身も奇人変人の域を出ないものであったのではないかと思います。
条件の劣悪な北海道で
前述したように、電気による暖房は家の性能が高くなり、暖房必要熱量が微少であればあるほど電気の特徴を生かす事が出来ます。条件としては温暖な本州の方が電気暖房に向いています。
条件の悪い北海道で暖房も含むシステム電化をエンドユーザーの視点で見た時、とにかく家の性能を向上させる事です。
ダンディー電力マンの彼は、ある蓄熱暖房器メーカーの営業担当者とともに、暖房器の重い蓄熱レンガをカバンに入れて、家の性能と暖房器の因果関係を工務店やハウスメーカーに説いて回りました。彼は15年先の現在の電化市場を見当てていたのです。その彼はノンキャリアで最高位の役職に就いたのです。
北海道から南下する
家の性能を彼のような電力関係者が説いて回るようになり、相乗して実質的効果の高い高性能住宅が建築される様になりました。
本州の温暖地では北海道のように寒くないから高い断熱気密性能など必要でないとする声を多く聞きます。
しかし、本州に南下するほど家の性能が低下するため、極寒の北海道より多くの暖房エネルギーを使用している現実があります。
本州の温暖地にもダンディーマンのような奇人変人が登場する事を願いたいものです。
次回は注目される高性能リニューアルを記述します。
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