断熱材の研究
グラスウール
1981年(昭和56年)頃から断熱素材研究を
福地建装は1981年(昭和56年)頃から、暖かい家づくりを目標に、断熱材の挿入法、素材探求などに試行錯誤していました。
当時、他の断熱材を知らなかったため、グラスウールでの施工法を模索していました。
グラスウールは綿の中に乾燥した空気を静止させることで断熱効果を発揮しますが、湿気を抱えると、湿気を含んだ布団のように、暖かくないだけでなくカビや腐食菌発生の要因にもなります。
そこで乾燥状態を保持できる施工法を考えることになるのですが、それはとんでもなく困難な研究でした。
グラスウールの外側に細かい穴を開けた15mm程度の簡易断熱材を張り込むことで、乾燥した空気を静止しやすくなり、床、壁、特に押入れやクローゼットの床や壁に挿入したグラスウールを、長期に渡り乾燥を保つことができるようになって、ひとまず安堵していました。
しかし、断熱材をどんなに厚くしても、それに見合う断熱効果を得ることができませんでした。
高温多湿の日本の気候
北欧の寒い国々の多くはグラスウールでの断熱が主流で、何十年もその効果を保持しています。北欧の断熱手法を調査すると、壁厚200mm~300mm以上の中すべてが、びっしりとグラスウールなどの断熱材だけで埋まっていました。
南北に細長い日本列島は、南下するほど断熱材を薄くしてもいいという規準がありました。しかし薄くした分、壁の中にできた隙間に空気が対流してしまい、断熱効果を完全に損ねていました。
さらにグラスウールが湿気を含むのは、高温多湿の日本の気候が大きく作用しているものと思い、調査したところ、年間の湿度は北欧などと大差がありません。
むしろ日本の本州の方が、平均湿度が若干低いほどです。
もっと詳しく調査すると、欧州の夏は気温が30℃を超えると湿度は40%前後まで下がり、日本の夏のように気温33℃、湿度80%などにはなりません。
日本は夏場の湿度だけが極端に高くなり、冬には極端に乾燥します。
壁体内の隙間だけでなく、日本の夏場の多湿が大きな要因となっていたのです。
断熱材だけで暖かい家にならない
断熱材の厚さを熱伝導率で割ると、熱抵抗値を算出できます。
つまり、断熱材が厚いほど暖かい家になるという理屈から、これでもか、これでもかと想いを込めて断熱材を充填したものの、思うように暖かくなりません。確かに厚い断熱部分から逃げる熱量は少なくなりましたが、断熱材の隙間から大量の熱を放出していました。
隙間があれば冷たい空気が浸入して人間のいる床付近に停滞し、暖かい空気を天井付近に押し上げ、膨張した空気は隙間からどんどん外部に逃げてしまいます。
暖かい家をつくるには、断熱材の厚さを増すより隙間を徹底して埋め込む方が、はるかに効果的である事がしだいに判明してきました。
ビニールハウスの気密性能を参考に
ヒントになったのは、弊社社屋の前にいくつも並んで作られていたビニールハウスです。この0.5mmのビニール一枚には全く断熱効果はなく、気密性能だけで真冬にもハウス内の温度をキープしているからです。
その様子から、隙間を作らない工夫の方がはるかに重要だと悟ったのです。グラスウールの断熱材で包んだ住宅の中に、ビニールハウスをもう一層構築する発想が湧いてきました。
結露のない気密住宅をつくる難しさ
最初はグラスウールの外側にビニールハウスのビニールを打ち込みました。ところが施工中からそのビニールに水滴らしきものが付着し、すぐに内部結露が発生したものとわかりました。施工時期が冬で内部を暖房してお湯を沸かしていたため、この現象を確認できました。
家屋内を20℃に暖房し、快適な湿度と言われる50%の時の露点温度は約9℃です。壁の中や床のグラスウールの外側は、外気温によって常に9℃以下になっている場合があります。つまりどのような家でも内部結露を起こす可能性があるのです。その低温部分を作らないよう、懸命に気密施工を試みました。
そこで、グラスウールの内側から張り直しました。
ところが、梁、火打ちなどの突起物が無数にある家の内部からビニールを張り込むのはとても難しく、また、ビニール素材の経年硬化などの性能劣化、そして建材を打ち付ける釘穴、ビス穴などからの漏気現象などが確認できたことから、ビニールや後に販売されるポリフィルムによる気密性能の構築と性能保持に限界を感じ、1981年(昭和56年)に見切りをつけたのです。
家に隙間を作らないという理屈はわかっていても、実現には程遠いものでした。
スチレンフォーム
スチレンフォームの採用で、内部結露の問題を解消
1983年(昭和58年)からは、弊社では断熱材にスチレンフォームを使用するようになりました。
スチレンフォームは、セル膜と言われる気泡の中に断熱性の高いガスを閉じ込めて、断熱性能を確保する断熱材です。これなら内部結露の恐れはありません。
硬いボード状のスチレンフォームを柱、間柱の外側に張り込む、今で言う外断熱(外張り断熱)です。スチレンフォームをまず一枚張り、その上にジョイントをずらしてもう一枚を張ります。そしてその張り合わせ部分を粘着テープで目止めを行うのです。柱や間柱などの断点ができないのと、外側の場合、突起物がないのでかなりの精度で施工することができました。
ところが出隅、入隅、下がり壁、複雑な立体構造などの場合、特に垂直な外壁と屋根や天井との取り合い、床との取り合い部分には困難を極めました。
もっと深刻なのは、スチレンフォームに閉じ込められたガスが抜けると収縮して断熱効果が低下することです。
現在の一般的なスチレンフォームは、表面を熱処理してガスの抜けないように処置されていますが、当時はカット面が露出していたため、一枚一枚ビニールを包装紙のようにして包み込んで施工していました。ここまで行うには相当の施工費がかかります。
当時はこのような理屈をいくら訴えても理解を得てもらえず、多くの方々から断熱マニアの独りよがりと揶揄する批判がほとんどでした。
さらにスチレンフォームは70℃以上の熱で熱劣化(断熱効果の低下)を引き起こすことが判明しました。
ウレタンフォーム
ウレタンフォームで断熱性能の向上を
そのためスチレンフォームより熱に強い、ウレタンフォームを使用するようになりました。
ウレタンフォームはポリウレタンを原料とする多孔性の合成ゴムのことで、120℃くらいまでの熱に耐えられますが、可燃性で燃えやすいという弱点がありました。
さらにビニール(当時はポリフィルム)で包装するのならウレタンフォームの方が断熱性能も高く、熱にも強いと判断し、ウレタンの外側に火炎防止の対策を施すことにしました。
このように素材を替えることで施工性はさらに困難になり、工務店経営も苦しい状況を余儀なくされましたが、とにかく施工性の優れたものをつくる必要性に切迫した時期でした。
パネル工法
パネル工法の採用
1982年(昭和57年)に、今では全国的に採用されているパネル工法で、数棟の住宅を作りました。
スチレンフォームの弱点である日射熱を抑えるために、15mmのシージングボードと言われる補助断熱材をコンパネの外側に張り、外側から躯体に打ち込みました。30mmのスチレンフォームだけでは断熱性能が足りないため、さらに内側から100mmのグラスウールを押し込むように充填しました。
これによって施工性はかなり改善されましたが、コーナーや下がり壁などの複雑な形状の部分の納まりは、どんなに頑張っても満足できるものにはなりませんでした。
現在は、樹脂断熱のパネル工法が全国的に主流となっていますが、複雑な部分での完全な断熱や気密性能を構築するには、かなりの課題を抱えたままになっています。
内断熱のメリット・デメリット
1パネル工法とは、軸組の柱と柱の間に樹脂断熱材を挟んだパネルを挿入する工法です。スチレンフォームの熱対策やウレタンフォームの火炎対策も施すことで、施工も簡単で工期が大幅に短縮できます。さらに断熱パネルをはさむ合板が耐力壁となり、耐震効果も高くなるなど、多くのメリットを生み出します。
このパネル工法は構造上、内断熱となります。パネル工法に限らず、グラスウールなど、綿状の断熱材の充填工法は全て内断熱に分類されます。
内断熱のデメリットは、柱や間柱が熱橋(ヒートブリッジ)となり、そこから外断熱に比べ20%程度多くの熱が逃げてしまいます。また、外周の柱や間柱、桁、梁、まぐさなどの構造部材は外気に面しているため、熱を蓄える量が極端に少なくなります。
これは、エアコンなどの冷暖房器の稼動入切を頻繁に行う場合は、構造体に熱を奪われないので経済的に作用します。しかし、外気の影響をまともに受けやすく、さらに部材間に湿気が染み込むと抜けにくいため、腐朽菌が発生する場合もあります。
外断熱のメリット・デメリット
柱、間柱、桁などの外側に断熱材を施す外断熱工法は、その構造部材が内側の居住空間に開放されて空気に触れるため、湿気を受けてもすぐに乾燥して腐朽菌が発生しづらく、さらにこの部分が内部の暖房熱、冷房熱を蓄熱して熱容量が大きくなり、温度差の激しい外気の影響を受けにくくなります。
室内の温熱環境は、冷暖房や日射熱が一度構造体に溜め込まれてから、“面”から輻射熱(遠赤外線)で放射するため、マイルドで穏やかな冷暖房空間をつくりやすくなります。また、外側の一面に連続して断熱層を形成できるために熱橋部分ができず、上手に使用すると大きな省エネメリットを得られます。
デメリットは、施工が構造や形状に左右されやすく、複雑な形状の住宅では施工の難度がさらに上がることです。また、冷暖房器の稼動電源の入切を行う場合、熱容量が膨大に多いため、一旦冷暖房した構造体に熱を奪われてしまい、とても不経済になります。
また、このように構造体の外側に断熱層を構築することは、断熱材のさらに外側に外壁材を設置することになります。そのため、支持力の伴わない断熱材が収縮すると、外壁材が波打ったり亀裂を生じることもあります。
外断熱のメリットを生かすには、構造形状と正確で完全な施工精度が求められます。
半内・半外断熱の、内外ダブル断熱工法を構築する
ファース工法は、内断熱と外断熱双方のメリットを、できるだけ多くピックアップしようと研究を重ねました。外側には、断熱性能の最も高いウレタン系で、さらに火炎対策、遮熱対策(太陽熱を跳ね返す)を施した断熱材「ファースボードK」を用いました。
そのため、外断熱の効果を保ちながら、その外側に取り付ける外壁材の重さで、外壁材の凸凹を防ぐことができるようになりました。
しかし、それだけでは断熱材の厚さが不足しているため、その外側の樹脂断熱材に内側からウレタン樹脂をスプレー発泡で、半分だけ内断熱にする方法を用いることにしました。
このように、「ファース工法」は半内・半外断熱という、独自の方式を作り上げました。
後に、内部側に通気層(インナー通気層)を設け、そこに家屋内の空気を循環させる方式へと進化します。この工法は幾つかの特許登録を取得しています。
ファース工法専用断熱材の誕生
厚吹き施工が可能な、現場発泡スプレー方式の断熱材
1988年(昭和63年)になって、冷蔵庫や冷凍庫に使用されていたウレタンの現場発泡スプレー方式の断熱材に着眼し、木造住宅に採用できないか検討に入りました。
元々、冷凍倉庫のような大きな面積に施工するために開発されてきたため、450mmの間柱の間に細かく均一に断熱材をスプレー発泡するには、原液の改良や発泡施工機械の改善などが絶対条件でした。
当時、鉄筋コンクリートビルや鉄骨造の躯体への防露目的のために現場発泡が行なわれており、細かい作業ができる装置と原液がすでに供給されていたものの、厚さが20mm程度のため、住宅に必要な50mmから100mmを超える厚さに対応できなければなりませんでした。
厚吹き施工は、発泡した断熱材をさらに上へと重ねて行くため、下のウレタンが発泡仕切らないうちに上のウレタンが固まると、内部での発泡によるフォームの膨張が進み(二次発泡)、被せたウレタンを押し破って亀裂を生じさせる恐れがあります。
早速、樹脂メーカーに厚吹き施工の可能なウレタン原液の研究開発を要請し、試行錯誤の末に100mm以上の厚吹き施工が可能になったことで、「ファース工法」が完成しました。それは1989年(平成元年)のことでした。
必然的に気密性能も向上
「ファース工法」の開発当初から、断熱ウレタンが、壁、屋根裏(天井)、床をシームレス状に一体となって包み込む手法を構築していました。樹脂を内側から外に向かってスプレーすることで、床、壁、天井の断点を作らずに断熱気密層を形成できます。
このために、断熱施工と同時に気密施工もできるようになったのです。ウレタン樹脂の厚さで断熱性能を担保し、それがそのまま気密層になります。
家には、窓や出入り口、換気口、換気扇などが壁を貫通しており、その部分には必ず小さな隙間が生じます。
「ファースの家」全体では、0.5cm2/m2~1.0cm2/m2(通常の家はその10倍も隙間がある)と多少の隙間はできますが、隙間相当面積係数(気密性能)を計測すると、断熱気密層の隙間は完全にゼロとなります。
日本で初めての現場発泡施工での断熱評定を
グラスウールで断熱しポリフィルムで気密を図るのが、日本の断熱と気密工法の骨子となっていたため、それ以外の断熱気密手法については、国土交通省(当時は建設省)の指定機関からの認定や評定などで認可されなければなりません。
評定、認定機関で評議する学者の先生方の多くが、家を丸ごと樹脂のスプレー発泡で包んでしまう当方の工法に驚き、戸惑われたようです。
環境ホルモン問題、可燃性などの問題を指摘され、その都度安全性の証明と構造的な改善を行い、1993年(平成5年)に日本で初めてこの手法にて「断熱評定」が公的機関から交付されました。
さらに困難だった気密評定(現在は認定)
断熱評定は、様々な課題をクリアして交付されましたが、気密評定は全く技術の次元が異なります。断熱材の熱伝導率とその厚さによって断熱性能を計算できるのが断熱評定ですが、従来、ポリフィルムで行っていた気密性能をスプレー発泡で行う場合、その厚さ特定の方法が課題となりました。
スプレー発泡による断熱材の厚さを特定する際、針のようなゲージを突き刺して行っており、時間が経てば針ゲージの穴など塞がってしまうにもかかわらず、気密層に針のゲージを突き刺すのはもってのほかと言う見解でした。
しかし、評議員の先生を納得させるため、10mmずつ長さを調節切断できる使い捨てゲージを開発して、これも日本で初めての発泡施工による「特別評価方法認定(気密方法)」を交付されました。この現場発泡樹脂材厚さ特定ゲージは実用新案登録を取得しています。
高い気密性能と共存する泣きどころ
ひとつの性能を追い求めると、必ずその副作用があるものです。
「ファースの家」は究極の気密性を追い求めたことから、どうしても通常の家に比べ室内反響音が大きくなります。
そして外部の音を遮断するため騒音を防ぎますが、救急車のサイレンなどの必要な音も近くに来るまで気づかない場合があります。反響音に関しては、吸音専用内装材や、天井裏にグラスウールやスポンジを吸音材として用い緩和する方法があります。
これらが「ファースの家」ならではの宿命的な泣きどころと言えるかもしれません。
ガスが使えない!から生まれたオール電化住宅で、経済性も向上
高気密・高断熱の「ファースの家」でしたが、その気密性能の高さから、室内でガスが燃焼しにくいのです。完全気密の住宅では炎を燃やすと真空に近くなり、やがて酸欠状態になり消えてしまいます。窓を開ければ解決できますが、それでは意味がありません。
そのため、福地建装では1985年(昭和60年)頃、日本で初めてのノンガス、ノンオイルの今でいうオール電化住宅をつくりましたが、当時はとても経済的とはいえませんでした。
その後、温水器や蓄熱暖房器などは深夜電力を活用し、余剰設備の有効活用、CO2排出量の低減などの社会的貢献、地球温暖化、少子高齢化など社会のニーズに合わせて、経済的な仕様へと改良を重ねています。
専用サッシの研究
暖かい家に開口部の性能が不可欠
住宅の構造部分の断熱材や、断熱の施工の技術的方法を研究してきましたが、家の温熱環境は総合機能で決まります。家全体から逃げる熱量の3分の1が、窓や換気からであり、残りが床、壁、天井と言われています。
わたしたちが目指す暖かい家づくりのためには、窓の開口部の対策が必須でした。
1989年(平成元年)、「ファース工法」では当時でもかなり進歩的な、ガラスを三枚用いたトリプル仕様の市販の窓を採用しました。価格も高価でしたが、何と言っても最大の問題はガラスの重さにあり、それを支えるサッシ枠から熱を逃がしてしまうのです。その後、樹脂のサッシ枠が市販されましたが、重量のあるトリプルガラスを支えられません。
そこでペアタイプでの高断熱ガラスを模索し、当時、画期的な20mmものガラス幅を持ち、ペアのガラスに空気が対流しにくくするためのガスを封入した特殊ガラスの採用に踏み切りました。
このガラスを採用することで、樹脂だけでなく樹脂とアルミの複合サッシも使用できるようになり、暖かい家づくりがかなり究極へと近づきました。
夏場の冷房対応を吟味する
1993年(平成5年)から、弊社の技術ノウハウを全国の工務店様に供給するフランチャイズ事業を展開しましたが、この頃には、完璧に近いくらい暖かい家づくりには自信が持てるようになりました。
ところが8ヶ月間も冬の気候が続く寒冷地はともかく、逆に8ヶ月間も夏の気候が続く温暖地では、夏場対策が不可欠です。特に開口部からの日射取得熱は膨大な熱量となり、冷房負荷を大きくします。暖房の省エネだけではなく、冷房の省エネも実践する必要があります。
開口部から日射熱を充分に取り込む冬期間は太陽高度が低くなるため、この角度の活用に着眼しました。それはガラスの受熱量がガラスに直角に当たったことを前提として計測されていたことがヒントとなりました。角度を変えると受熱量が少なくなりますが、これにLow-E機能という金属微粒子をガラスにコーティングすることで、さらに遮熱や断熱効果を促進することがわかったため、同業他社に先がけてLow-Eガラスを標準装備としました。
これによって「ファースの家」は涼しい家づくりも実践できるようになったのです。