高性能・健康住宅「ファースの家」開発本部株式会社福地建装

お知らせ

2011.04.17

北海道新聞 「朝の食卓」 2011.04.17掲載

「ビジネスマンの哀愁」 福地脩悦

 冷たい春風が吹く街頭の屋台で、背中を丸めて酒を飲む男性の後ろ姿に見覚えがありました。彼は先ほどまで私も参加した大手企業の会議を仕切っていた管理職です。彼の会議進行は理路整然と多くの意見を集約し、見事に方向性を見出します。私とは公私にわたって長い付き合いです。
 いつもはつらつとした彼なのですが、後ろ姿には哀愁に満ちていました。隣に座ると「いらっしゃい!」とオヤジさんの声。彼と同じおでんのちくわとダイコンを注文し、「背中が寂しそうに見えたよ」と話しかけると、こっくりとうなずき、数日前に奥さんが子供を連れて出て行ったと言います。仕事人間の彼は家にいる時間が少なく、家庭に目配りが足りなかったのでしょうか。
 そこへ、オヤジさんの奥さんが「いつもありがとう!」と私たちに声を掛けながら入って来てオヤジさんに何かを手渡し、「どうぞごゆっくり」と爽やかな笑顔を残して帰って行きました。
 男が時に家庭を顧みず社会で戦うのは、妻や子のためでもあるのです。ですが奥さんとオヤジさんが交わした笑顔を見て、彼と「そのような男の思考や一方的な振る舞いこそが、家に残された家族を傷つけているのかもしれないな」と語り合いました。
 「家族を迎えに行く」。そう言って店の椅子から立ち上がった彼の後ろ姿から、哀愁が消えていました。